
なぜ、あなたの筋トレは続かないのか? 50代の邪魔をする『プロスペクト理論』の罠と、脳を味方につける逆転の習慣術
はじめに
唐突ですが、なんだか最近季節感が無くなったような気がしませんか?
ついこの間まであんなに暑かったのに、急に寒くなったような・・・
Tシャツ1枚からいきなりコートを着るような、そんな感じです。
「秋」を感じるような期間がすっ飛ばされているんじゃないかって感じですよ。
猛暑が終わって、快適な秋を感じる間がいっさい省かれてしまったようで、なんか風情を感じないというか・・・
なんだか日本の四季の良さを感じられなくなってきたように感じますよね。
秋は「スポーツの秋」「読書の秋」そして「食欲の秋」なんて言われますが、
秋の醍醐味を満喫する前に、「えっ!もう来ちゃった」って冬がやって来てます。
その季節ごとの風物詩を味わう間すら与えてくれないような・・・
本来であればですよ、「食欲の秋」に美味しいものをたらふく食べて、ぽっこりお腹がさらにぽっこりしちゃう季節なんですよね。
で、さすがにその「ぽっこりx2お腹」が気になって、「どげんかせんといかん!」と一念発起するわけですよ。
ま、この流れは秋が来なかろうと関係ないと思うんですが。
(じゃあここまでの話の流れは何だったんだ!っていうツッコミはなしでお願いします)
ともかく「ぽっこりx2お腹」をなんとかするために、「朝ジョギングしよう!」とか「筋トレしよう!」とか計画するわけです。
そうなんです、一応計画はするんです。
なんですが、なかなか始まらない、始められないんです。
よしんば始めたとしても、まるで計ったように「3日坊主」で終わっちゃうんです。
「ぽっこりx2お腹」が「ぽっこりお腹」にすらならないんですね。
まあこの手の話は、季節に関係なく1年中どこかで起きていることだと思いますけど。
僕ら50代にとっては年齢的にも「ぽっこりx2お腹」をほったらかしにしておくのは、非常に危険なわけです。
それこそ「どげんかせんといかん」わけです。
「筋トレ」を始めましょう!
と言って、すぐに始められる人はなかなかいません。
始められたとしても続かない人が圧倒的に多いんです。
じゃあどうすればいいのか?
「黙ってやれ!」的な精神論、根性論ではなく、科学的どうすればいいのかを考えてみましょう。
このテーマは何度も取り上げていますが、今回改めて、更に科学的に検証、解説していきたいと思います。
「科学的にって何?」と思われたあなた、安心してください。
今回は、ノーベル賞を受賞した行動経済学の「プロスペクト理論」を使い、なぜ50代の私たちが筋トレに挫折しやすいのかを解明していきます。
そして、その理論を逆手に取り、今度こそ「無理なく続く」筋トレ習慣を手に入れるための具体的な方法をご紹介します。
第1章:解説:あなたの行動を操る「プロスペクト理論」とは?
プロスペクト理論(Prospect Theory)とは、「人は損失を極端に嫌い、不確実な状況下(リスクがある場面)で、必ずしも合理的には行動しない」という人間の意思決定のクセを説明した、行動経済学の代表的な理論です。
1979年に心理学者のダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)とエイモス・トベルスキー(Amos Tversky)によって提唱されました。
カーネマンは、この業績により2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。
従来の経済学では、「人は常に自分の利益が最大になるよう合理的に判断する(期待効用理論)」と考えられていましたが、プロスペクト理論は「人間の判断は感情や心理的なバイアスによって歪む」ことを実証的に示しました。
この理論は、主に2つの柱で成り立っています。
1.価値関数(ものの感じ方)
人々が利益や損失をどのように「感じるか」を示したものです。
これには3つの大きな特徴があります。
①参照点(基準点)がある
人は「今持っている総額」のような絶対的な価値ではなく、「現状(参照点)からどれだけ増えたか(利得)、減ったか(損失)」で物事を判断します。
②損失回避性(Loss Aversion)
これがプロスペクト理論の最も重要な発見です。
人々は、「利益を得る喜び」よりも「同額の損失を被る苦痛」のほうを、精神的に約2〜2.5倍も大きく感じる傾向があります。
例:
「1万円拾う」喜びよりも、「1万円失う」苦痛のほうがはるかに大きい。
この「損をしたくない!」という強い心理が、不合理な判断を引き起こします。
③感応度逓減性(だんだん鈍くなる)
利益も損失も、その金額が大きくなるにつれて、それに対する感情の反応(喜びや苦痛)は鈍くなっていきます。
例:
「0円が1万円になる」喜びは、「100万円が101万円になる」喜びよりも大きい。
「0円がマイナス1万円になる」苦痛は、「マイナス100万円がマイナス101万円になる」苦痛よりも大きい。
2.確率加重関数(確率の感じ方)
人々が「確率」をどのように主観的に歪めて認識しているかを示したものです。
・低い確率を「過大評価」する
客観的には「ほぼ起こらない」確率でも、実際よりも高く見積もってしまいます。
例:
宝くじの当選確率は極めて低いのに、「もしかしたら当たるかもしれない」と期待して買ってしまう。
・高い確率を「過小評価」する
客観的には「ほぼ確実に起こる」確率でも、実際よりも低く見積もり、わずかな失敗の可能性を過度に恐れます。
例:
「95%成功する手術」と聞いても、「残り5%の失敗リスク」が気になって決断できない。
プロスペクト理論からわかる人間の行動パターン
これらの「価値の感じ方」と「確率の感じ方」が組み合わさることで、人は状況によって全く逆の判断を下します。
A.利益が出ている局面(利得局面)
人は「損をしたくない」ため、リスクを避けて確実な利益を好む(安定志向)ようになります。
質問:
どちらを選びますか?
1.確実に10万円もらえる。
2.コインを投げて、表なら20万円もらえるが、裏なら0円。
→ 多くの人は、期待値は同じ(10万円)でも、0円になるリスク(損失)を嫌い、「1.確実な10万円」を選びます。
B.損失が出ている局面(損失局面)
人は「損失を確定させたくない」ため、損失を取り返そうと、より大きなリスクを追求する(リスク志向)ようになります。
質問:
あなたは20万円の借金をしています。どちらを選びますか?
1.確実に借金を10万円に減額してもらう。(=10万円の損失が確定)
2.コインを投げて、表なら借金がゼロ(0円)になるが、裏なら借金は20万円のまま。
→ 多くの人は、「10万円の損失を確定させる」ことを嫌い、一発逆転を狙って「2.コインを投げる」というギャンブルを選びます。
私たちの身近にあるプロスペクト理論
この理論は、日常生活やビジネス(特にマーケティング)で広く応用されています。
・投資やギャンブル
利益確定が早い: 株価が上がって利益が出ると、それが下がる「損失」を恐れて、すぐに売ってしまう。
損切りができない: 株価が下がって損失が出ると、その「損失を確定させる」苦痛に耐えられず、いつか戻るかもしれないと期待して持ち続けてしまう(塩漬け)。
・マーケティング手法
期間限定・数量限定セール: 「今買わないと損をする」という損失回避性に訴えかけ、購入を後押しします。
返金保証: 「買って失敗したらどうしよう」という購入時の損失リスクを和らげ、購入のハードルを下げます。
ポイントカード: 「せっかく貯めたポイントが失効するのは損だ」と感じさせ、再来店を促します。
プロスペクト理論は、私たちが自分でも気づかないうちに、いかに「損をしたくない」という感情に強く影響されて判断しているかを教えてくれる理論です。
💪 筋トレとプロスペクト理論の可視化
📊 損失回避バイアスと筋トレモチベーション
| シナリオ | 獲得フレーム | 損失フレーム | 主観的価値 |
|---|---|---|---|
| 筋トレを1週間続ける | 筋力が5%向上する | 筋力低下を5%防ぐ | +5.0 |
| 筋トレをサボる | 休息時間が得られる | 筋力が3%低下する | -7.5 |
| プロテインを摂取 | 筋肉回復が20%改善 | 回復遅延を20%防ぐ | +6.0 |
| トレーニング頻度を増やす | 月4kg増量できる | 停滞期を回避できる | +8.5 |
| 過度なトレーニング | 短期的に成果が出る | 怪我リスク30%増加 | -9.0 |
📈 価値関数曲線: 筋トレの成果と主観的満足度
🎯 参照点依存性: トレーニング目標の設定
| 現在の状態(参照点) | 目標設定 | 達成確率 | モチベーション指数 |
|---|---|---|---|
| ベンチプレス 60kg | 70kg達成 | 75% | 8.2 |
| ベンチプレス 60kg | 100kg達成 | 30% | 4.5 |
| ベンチプレス 60kg | 60kg維持(損失回避) | 90% | 9.1 |
| 体脂肪率 20% | 15%に減少 | 60% | 7.8 |
| 体脂肪率 20% | 25%への増加を防ぐ | 85% | 8.9 |
⚖️ 確率加重関数: トレーニング成果の期待値
🧠 筋トレ継続のための行動経済学的戦略
| 心理バイアス | 筋トレへの応用 | 効果スコア |
|---|---|---|
| 損失回避 | 「今日サボると3日分の成果が失われる」と考える | 9.2/10 |
| サンクコスト効果 | ジム会費を前払いして継続圧力を作る | 7.8/10 |
| 現状維持バイアス | トレーニングをルーティン化して習慣にする | 8.5/10 |
| 確証バイアス | 小さな成果を記録して成長を可視化する | 8.0/10 |
| 社会的証明 | トレーニング仲間を作り相互監視する | 8.7/10 |
第2章:なぜ50代の筋トレは「プロスペクト理論」に負けるのか?
筋トレが続かない理由を「損失」の観点から解説します。
これ誰もが無意識にやっちゃっていますから、しっかりと自分事として心して読んでくださいね。
①「始める」ときの罠:「確実な損失」が「未来の利益」に勝つ
筋トレの「損失」: 「今からの30分」という貴重な時間、楽に休めるはずだった「快適さ」、キツい運動による「疲労」。
これらは「今、確実に失う」損失です。
筋トレの「利益」: 「将来の健康」「引き締まった体」。
これらは「手に入るか不確実な、未来の利益」です。
脳の判断: 私たちの脳は「未来の不確実な利益」より「今の確実な損失」を重く見るため、「(時間を失ってまで)やるのは損だ」と判断し、行動にブレーキをかけます。
②「続ける」ときの罠:「利益」より「損失」に敏感すぎる
感じにくい「利益」: 筋トレの効果(筋肉が1g増える、体脂肪が1g減る)は、日々少しずつしか現れません。
プロスペクト理論の「感応度逓減性」により、小さな利益は「得した」と実感しにくいのです。
感じやすい「損失」: 一方、「今日は疲れているのに無理した(損失)」「飲み会を我慢した(損失)」「筋肉痛がひどい(損失)」といった苦痛は、非常に強く感じられます。
脳の判断: 「こんなに損(苦痛)を感じているのに、見返り(利益)が少なすぎる」と脳が判断し、「続けるのは割に合わない」と挫折につながります。
僕はこれが一番厄介だと思っています。
挫折するほとんどの人(脳)が無意識にこう判断していると思うんですよね。
かなり厄介な代物だと思いますね。
第3章:脳のクセを逆手に取れ! 50代からの「プロスペクト理論」活用術
さあ、いよいよここからです、ここが本題です。
「損したくない」という脳の性質を、逆に筋トレを続けるための「燃料」に変える方法を提案します。
ハック①:「やらない=損」というフレーム(枠組み)で考える
「筋トレをすると健康が得られる(利益)」と考えるのをやめましょう。
「今日筋トレをしないと、将来の健康な生活を失う(損失)」と考えるようにするんです。
「将来、旅行に行けなくなる」「孫と遊べなくなる」「医療費で大金が飛んでいく」——
こうした具体的な「損失」を意識することで、脳は「その損失を回避しなくては!」と強く動機づけられるんです。
ハック②:「小さな損失」を仕組み化して「やらない」を防ぐ
サンクコスト(埋没費用)の活用: 「損切り」できない人間の性質を利用します。
具体例:
パーソナルジムに投資する: 「高額な料金を払ったのだから、行かないと損だ」という心理が働きます。
仲間と宣言する: 「やると言ったのにやらないと、仲間からの『信頼』を失う」という損失回避が働きます。
記録をつける: 毎日カレンダーに◯をつける。「昨日まで続いた連続記録が途切れるのは『損だ』」と感じさせるんです。
ハック③:「損失」を減らし、「利益」を際立たせる
・損失を最小化する: 50代は無理が禁物、よって「キツい」という損失感を減らすわけです。
具体例:
「毎日30分」ではなく「週2回、10分だけやる」と決め、始めるハードル(時間の損失感)を極限まで下げます。いわゆるベイビーステップですね。
・利益を可視化する: 小さな利益を実感できるようにします。
具体例:
体重計の数値だけでなく、「昨日より1回多く腕立てができた」「階段を上るのが楽になった」という小さな「できたこと(利益)」を認識し、記録していくんです。
まとめ:意志の力に頼るな!脳の仕組みで乗りこなせ!
何度も言いますが、50代の僕たちが筋トレに挫折するのは、意志が弱いからではありません。
脳が「損失」を極端に嫌うようにプログラムされているからなんです。
必要なのは「気合」や「根性」ではなく、その脳のクセを理解し、うまく手なずける「戦略」です。
まずは「将来の健康を失わないため」に、今日、5回のスクワットから始めてみませんか?
あなたの脳を「最大の敵」から「最強の味方」に変えていきましょう。
それではまた。